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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)147号 判決

東京都中野区本町5丁目9番12号

原告

株式会社正栄機械製作所

代表者代表取締役

瀬戸良皓

訴訟代理人弁理士

野口秋男

訴訟復代理人弁理士

須田孝一郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

高橋詔男

田辺秀三

中村友之

主文

特許庁が平成2年審判第658号事件について平成3年4月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「紙折機のベルト駆動ユニツト式紙折ナイフ装置」とする発明につき、昭和58年7月12日、特許出願をしたが、昭和61年11月6日、上記出願を実用新案登録出願に変更したところ、平成元年11月24日、拒絶査定を受けたので、同2年1月23日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第658号事件として審理した結果、平成3年4月18日、上記請求は成り立たない、とする審決をした。

2  本願考案の要旨

「一枚のプレート(1)に対し、電動クランク機構により紙折ナイフ機構が上下動する電動クランク式ナイフ装置本体aと、駆動モーター装置bとを分離して、そのクランク機構とモーターとの各回転軸(2)(3)に伝動ベルト

(6)を架設して該本体aがベルト間接駆動するようユニツト状に固定配備すること、又、上方開口部内周をキヤツプネジ部(14)となし、該本体a部材の匣体(8)の対向の上下貫通孔(15)(16)を貫通する長さで下端に紙折ナイフ(17)を取り付けた有底円筒のナイフ軸(18)と、又、該軸(18)の筒孔(19)内に対し、その奥底部内に弾性部材(20)を挿入し、その上に筒内をスライドする遊び芯棒(21)を遊嵌内蔵せしめ、クランクピン(13)を該芯棒(21)に対し、該ピン(13)に対応するナイフ軸(18)壁に穿設した長孔(22)を通して螺着して、該軸(18)を該貫通孔(15)(16)に縦貫すること、又、該軸(18)の上方の該ネジ部(14)に対し、下端が該芯棒(21)に当接する調節ネジ(24)を螺着し、該ネジ(24)にゆるみ止め固定ナツト(25)を該軸(18)の上縁に向って螺着することからなる紙折機のベルト駆動ユニツト式紙折ナイフ装置。」(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨

前項記載のとおりである。

(2)  引用例

本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例1(特公昭55-28987号公報)及び同2(実公昭47-18009号公報)には、以下の記載がある。

a 引用例1

「折りたたみ機が、可動ユニツト(第1~第3図)として設計されており」(1頁2欄29、30行)及び「本発明に係わる折りたたみ機が移動可能な構造ユニツトとして開発されている」(3頁5欄26ないし28行)との記載からみて、引用考案1がユニツト化を図ったものであることは明らかであるから、垂直デイスク(24)に対し、電動クランク機構(16)により折りたたみブレード(14)が上下動する電動クランク式ブレード折りたたみ機構(12)を固定配備し、垂直デイスク(24)が取り付けられる板状フレーム(25)に対し、電動モータ(37)を固定配備し、ブレード折りたたみ機構(12)と電動モータ(37)とを分離して、クランク機構(16)とモータ(37)の各回転軸間にVベルト駆動機構等の伝動機構を設けてブレード折りたたみ機構(12)が間接駆動するにようユニツト状にしてなるベルト駆動ユニツト式折りたたみ機が記載されている(別紙図面(2)参照)。

b 引用例2

上方開口部内周をキヤツプ(15)のネジ部とし、紙折畳機のシリンダ軸受(12)を貫通する長さで下端に折包丁(3)を取り付けた有底円筒のピストンロツド(1)の筒孔の奥底部内にスプリング(4)を挿入し、その上に筒孔内をスライドする挟持体(5)人(5')を遊嵌内蔵させ、コロレバー(9)及び連結リンク(10)を介して回転カム(7)により上下動されるレバー(8)の先端をピストンロツド(1)壁に穿設した通孔(16)を通してレバー挟持体(5)(5')間に挟入して、ピストンロツド(1)をシリンダ軸受(12)に縦貫させ、ピストンロツド(1)の上方のネジ部にキヤツプ(15)を固定し、キヤツプ(15)の中央のネジ孔に対し、下端がレバー挟持体(5')に当接する調節杆(6)を螺着し、調節杆(6)にゆるみ止めを設けてなる紙折畳機が記載されている(別紙図面(3)参照)。

(3)  本願考案と引用考案1との対比

a 一致点

引用考案1の「折りたたみブレード(14)」が本願考案の「紙折ナイフ機構」に、「ブレード折りたたみ機構(12)」が「ナイフ装置本体a」に、「電動モータ(37)」が「駆動モーター装置b」に、「折りたたみ機」が「紙折ナイフ装置」に、それぞれ対応するから、両考案は、電動クランク機構により紙折ナイフ機構が上下動する電動クランク式ナイフ装置本体aと、駆動モーター装置bとを分離して、クランク機構とモーターの各回転軸間を間接駆動するようユニツト状に固定配備してなるユニツト式紙折ナイフ装置である点で一致する。

b 相違点

電動クランク式ナイフ装置本体aと駆動モーター装置bとが固定配備される部材が、本願考案においては一枚プレートであるのに対し、引用考案1においては垂直デイスクと板状フレームの2部材である点(相違点〈1〉)、間接駆動機構が、本願考案においては伝動べルトであるのに対し、引用考案1においてはVベルト駆動機構等の伝動機構である点(相違点〈2〉)、及びクランク式ナイフ装置本体aが、本願考案においては、上方開口部内周をキヤツプネジ部(14)とし、本体a部材の匣体(8)の対向の上下貫通孔(15)(16)を貫通する長さで下端に紙折ナイフ(17)を取り付けた有底円筒のナイフ軸(18)と、ナイフ軸(18)の筒孔(19)に対し、その奥底部内に弾性部材(20)を挿入し、その上に筒孔内をスライドする遊び芯棒(21)を遊嵌内蔵させ、クランクピン(13)を遊び芯棒(21)に対し、クランクピン(13)に対応するナイフ軸(18)壁に穿設した長孔(22)を通して螺着して、ナイフ軸(18)を貫通孔(15)(16)に縦貫し、ナイフ軸(18)の上方のネジ部(14)に対し、下端が遊び芯棒(21)に当接する調節ネジ(24)を螺着し、調節ネジ(24)にゆるみ止め固定ナツト(25)をナイフ軸(18)の上縁に向かって螺着することからなる構成であるのに対し、引用考案1の構成は不明である点(相違点〈3〉)の3点において相違する。

(4)  相違点に対する判断

a 相違点〈1〉

ユニツト化の見地からすれば、二つの部材を一体化することは、単なる設計事項にすぎない。

b 相違点〈2〉

伝動機構として伝動ベルトを用いることは、単なる設計事項にすぎない。

c 相違点〈3〉

引用考案2の「紙折畳機のシリンダ軸受(12)」がその機能に照らし本願考案の「本体a部材の匣体(8)」に、「折包丁(3)」が「紙折ナイフ(17)」に、「ピストンロツド(1)」が「ナイフ軸(18)」に、「スプリング(4)」が「弾性部材(20)」に、「挟持体(5)(5')」が「遊び芯棒(21)」に、「通孔(16)」が「長孔(22)」に、「キヤツプ(15)の中央のネジ孔」が「ネジ部(14)」に、「調節杆(6)」が「調節ネジ(24)」に、それぞれ対応するところ、引用例2には、上方開口部内周をネジ部とし、紙折ナイフ装置の匣体を貫通する長さで下端に紙折りナイフを取り付けた有底円筒のナイフ軸の筒孔の奥底部内に弾性部材を挿入し、その上に筒孔内をスライドする遊び芯棒を遊嵌内蔵させ、コロレバー及び連結リンクを介して回転カムにより上下動されるレバーを遊び芯棒に対し、ナイフ軸壁に穿設した長孔を通して関連させて、ナイフ軸を匣体に縦貫させ、ナイフ軸の上方のネジ部に対し、下端が遊び芯棒に当接する調節ネジを螺着し、調節ネジにゆるみ止めを設けてなる紙折ナイフ装置が記載されており、これは、クランクピンで遊び芯棒をスライドさせる点及びゆるみ止めに固定ナツトを用いる点を除き、相違点〈3〉の本願考案の構成と一致している。

d 引用考案1のクランク式ナイフ装置本体に引用考案2を適用するについては、引用考案2のコロレバー及び連結リンクを介して回転カムにより上下動されるレバーに代えてクランクピンを採用することになるが、引用考案1のクランク式ナイフ装置本体がもともとクランク機構を用いるものであり、かつ、回転カムにより上下動されるレバーもクランクピンも、共に回転運動をスライド運動に変える機構として従来周知のものであるから、当業者が格別困難性を要せずになし得るところであり、しかも、そうすることによって、予期し得る以上の格別の効果が生ずるものとも認められない。また、ゆるみ止めに固定ナツトを用いることは単なる設計事項である。

(5)  したがって、本願考案は、上記各引用例及び周知事項に基づき、当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)(2)は認める。同(3)aのうち、「ブレード折りたたみ機構(12)」が「ナイフ装置本体a」に一致するとの点は争うが、その余及び同bは認める。同(4)a、bは否認する。同(4)cのうち、「挟持体(5)(5')」が「遊び芯棒(21)」に対応するとの点及び引用考案2が本願考案の遊び芯棒(21)に相当する構成を備えているとの点は争うが、その余は認める。同dは争う。

審決は、相違点〈3〉の判断に関し、引用考案2の「挟持体(5)(5')」が本願考案の「遊び芯棒(21)」に対応し、この点において両考案の構成は一致すると誤認して、相違点〈3〉の判断を誤り、ひいては本願考案において「遊び芯棒(21)」の構成を採用したことによる顕著な作用効果を看過し、その進歩性を否定したものであるから、違法であり、取消しを免れない。

すなわち、本願考案における「遊び芯棒(21)」は1本の長棒体であって、これにクランクピン(13)を螺着してなる構成である。これに対し、引用例2には、「遊び心棒」は存在せず、これに対応する構成として異部材の2個の個別片の「挟持体(5)(5')」を採用している。そして、この「挟持体(5)(5')」は、図面から明らかな如く、「2個の個別の部材」であり、その「中間にレバー(8)の先端部が嵌挿されている構成」である。したがって、この点に関する両考案の構成は異なるから、上記構成の相違は、本来、相違点として捉えられ、もし、本件出願を拒絶するのであれば、この相違点に関する構成を示唆する引用例が示されてしかるべきところである。

しかるに審決は、上記の一致点の誤認により、この相違点を看過したものであるから、既にこの点において違法であり、取消しを免れない。

さらに、本願考案において採択した「遊び芯棒(21)」の構成は以下のような優れた作用効果を奏するものであり、かかる作用効果は引用考案2の前記「挟持体(5)(5')」の構成からは得られないものである。

すなわち、本願考案の前記「遊び芯棒(21)」の構成は、〈1〉クランク機構によってナイフ機構の上下動は、レバー操作機構に比べて機構部材の疲労、磨耗の不安がないので、ナイフの上下動速度に全く狂いが起こらない、〈2〉遊嵌レバー操作機構に比べて電動機構であるから、機構が長大化せず、騒音の発生がなく、長期使用、安定性が確実に保障されるという長所がある。

これに対し、引用考案2の前記「挟持体(5)(5')」の構成においては、レバー(8)の上下動で2個の各部材は、レバー(8)の動きに伴い、〈1〉互いに絶えずこすれぶつかり合い、互いの接触部分は磨耗が激しく起こるし、〈2〉こすれぶつかり騒音が非常に大きく発生することとなるし、〈3〉部材のこすれ摩擦で、レバー(8)の動きはロツド内の調節機構に支障を与えつづけるからバネ変調も起こり得るし、〈4〉以上が相関連してロツド駆動にガタが起こる危険性を有するという欠陥を有するのである。

以上のように、審決は、本願考案の「遊び芯棒(21)」と引用考案2の「挟持体(5)(5')」とが一致するとの誤った認定判断をし、本願考案が1本の長棒体である「遊び芯棒(21)」の構成を採用したことによる顕著な作用効果を看過し、その進歩性を否定したものであるから、違法であり、取消しを免れない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。

2  反論

原告は、本願考案の「遊び芯棒」は「1本の長棒体である」として、審決の相違点〈3〉に関する認定判断を非難するが、「遊び芯棒」が「1本の長棒体である」であることは、本願考案の構成に欠くことのできない事項のみを記載した本願明細書の実用新案登録請求の範囲に記載がなく、したがって、上記主張は、その前提を誤るものであって、失当である。

仮に、原告主張のとおり、「遊び芯棒」は「1本の長棒体である」としても、以下に述べるように、審決の認定判断に誤りはない。

すなわち、本願考案の「遊び芯棒」が1本の長棒体であるとしても、引用考案2の「挟持体(5)(5')」は、その上面はピストンロツド1の上端に固着されたキヤツプ15に螺合する調節杆6の先端に当接しており、同時に、その下面は、下方からスプリング4により下側の挟持体(5)及びレバー先端部を介して強く押圧されているのであるから、上側の挟持体(5')はピストンロツド1の下降と同速度であり、該ピストンロツド1の下降は駆動力に基づくものであるため、上側の挟持体(5')の下降は自然落下に基づくものではないから、挟持体(5)(5')はレバー先端部と一体として動くことは明らかであるから、1本の遊び芯棒と同等なものであるといえるのであり、審決の前記認定判断は結論において誤りとはいえない。

第4  証拠

証拠関係は、書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがなく、引用例1及び2に記載された考案の構成、本願考案と引用考案1との一致点(但し、後者の「ブレード折りたたみ機構(12)」が前者の「ナイフ装置本体a」である点において一致するとの点を除く。)及び相違点が審決摘示のとおりであることも当事者間に争いがないく、いずれも成立に争いのない甲第2号証の1(本願考案に係る公開実用新案公報)、同甲第2号証の2(平成2年2月1日付け手続補正書)及び同第3号証(引用例1に係る特許出願公告公報)によれば、本願考案の「ナイフ装置本体a」が引用考案1の「ブレード折りたたみ機構(12)」である点において一致するものと認めることができる。

2  取消事由について

相違点〈3〉の構成のうち、本願考案の「遊び芯棒(21)」が引用考案2の「挟持体(5)(5')」に対応するとの点及び引用考案2が本願考案の「遊び芯棒(21)」に相当する構成を備えているとの点を除き、両考案の各部材の対応関係及び両考案の構成上の一致点及び相違点に関する審決の理由の要点(4)cの摘示はいずれも当事者間に争いがなく、原告が審決の取消事由として主張する点は、本願考案における「遊び芯棒(21)」が、引用考案2の「挟持体(5)(5')」と一致するとした相違点〈3〉に関する審決の認定判断の当否である。

(1)  被告は、本願考案における実用新案登録請求の範囲には、「遊び芯棒」が「1本の長棒体である」とは規定されていないと主張するので、この「遊び芯棒(21)」の構成について検討することとする。

実用新案登録請求の範囲の記載に即して上記「遊び芯棒(21)」に関する本願考案の構成についてみると、「遊び芯棒(21)」に関連した記載は、「上方開口部内周をキヤツプネジ部(14)となし、該本体a部材の匣体(8)の対向の上下貫通孔(15)(16)を貫通する長さで下端に紙折ナイフ(17)を取り付けた有底円筒のナイフ軸(18)と、また、該軸(18)の筒孔(19)内に対し、その奥底部内に弾性部材(20)を挿入し、その上に筒内をスライドする遊び芯棒(21)を遊嵌内蔵せしめ、クランクピン(13)を該芯棒(21)に対し、該ピン(13)に対応するナイフ軸(18)壁に穿設した長孔(22)を通して螺着して、該軸(18)の上方の該ネジ部(14)に対し、下端が該芯棒(21)に当接する調節ネジ(24)を螺着し、該ネジ(24)にゆるみ止め固定ナツト(25)を該軸(18)の上縁に向つて螺着することからなる紙折機」と記載されていることは当事者間に争いがない。

そこで、上記実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて、「遊び芯棒(21)」の構成をみると、「遊び芯棒(21)」の取付位置は、筒孔(19)内であり、その取付態様は、遊嵌内蔵されていること、次に、他の構成部材との相互位置関係についてみると、「遊び芯棒(21)」は、その下端においては、弾性部材(20)の上端部に接し、その上端においては、キヤツプネジ部(14)の下端に当接していること、すなわち、キヤツプネジ部(14)の下端と弾性部材(20)の上端にそれぞれ接する形で挟み込まれていること、並びに、遊び芯棒(21)にクランクピン(13)がナイフ軸(18)壁に穿設した長孔(22)を通して螺着されている構成であることが理解されるところである。

以上の実用新案登録請求の範囲における「遊び芯棒(21)」及びこれと関連を有する前記各部材についての記載を総合すると、「遊び芯棒(21)」は単一の部材から構成されているものと解するのが相当であり、これを複数の部材からなるものと解さなければならない技術的理由は見出し難いものというべきであるから、「遊び芯棒(21)」は「1本の長棒体である」部材であると解釈するのが相当というべきである。

そうすると、「遊び芯捧(21)」が「1本の長棒体である」ことは、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載自体から明らかというべきである。

なお、被告は、上記請求の範囲の記載においては、「遊び芯棒(21)」が「1本の長棒体である」とは規定されていないと主張するところであるから、仮に、前記実用新案登録請求の範囲の記載上、「遊び芯棒(21)」の構成が一義的とはいえないとする余地があるとして、考案の詳細な説明を参酌して、念のため、この点を更に検討してみる。

いずれも成立に争いのない甲第2号証の1(本願考案に係る公開実用新案公報)及び同号証の2(本願考案に係る平成2年2月1日付け手続補正書)によれば、以下の事実が認められる。

まず、上記取消事由の判断に必要な限度で本願考案の概要についてみる。本願考案は紙折機のクランク式紙折ナイフ装置の改良に関するものである。従来のクランク式紙折ナイフ装置におけるカム駆動のレバー操作によるナイフの上下運動においては、レバーの高速上下動で、レバーとレバー支持部材とに摩耗ガタが起こり易く、その結果、ナイフ上下速度が微妙に狂ったり、機構の複雑長大化と共に、カム回転及びレバーとレバー支持部材とがこすれ合うことによる騒音並びにカム摩耗によるレバー運動の微妙な狂いの発生、ひいてはナイフ位置が不正確となる等の欠点があった(前記公開実用新案公報(3)頁5行ないし11行)。

本願考案は、従来技術の有した上記欠点の除去を目的とするものであり、クランク式小型ユニツト装置において、ナイフ装置本体を全く動かさず、かつ、ナイフのクランク上下動に関係なく、簡単な調節ネジ操作だけで、ナイフ軸だけの独立した上下微調整が簡便、迅速、かつ、正確にでき、しかも機構部材の摩耗不安がなく、そのためナイフの上下速度に全く狂いが起こらず、長期安定性が確実に保障されるユニツト式のクランク式紙折ナイフ装置の提供を目的とするものである。

上記実用新案登録請求の範囲の記載に対応する本願考案の実施例として示された構成では、クランク機構は、回転軸(2)に偏心板(10)が定着され、それにクランク杆(11)の一端部がネジ(12)枢着され、他端部にはクランクピン(13)が枢着される。そして、上方開口部内周をキヤツプネジ部(14)とし、匣体(8)の対向の上下貫通孔(15)(16)を貫通する所要の長さで下端に紙折ナイフ(17)を取り付けてなる有底円筒のナイフ軸(18)と、ナイフ軸(18)の筒孔(19)内に対し、その奥底部内に適宜の弾性部材(20)を挿入し、その上に筒内をスライドする前記ネジ部(14)に達する長さの遊び芯棒(21)を遊嵌内蔵させ、クランクピン(13)を遊び芯棒(21)の下方部に対し、クランクピン(13)に対応するナイフ軸(18)壁に相当範囲の長孔(22)を縦穿し、この長孔(22)を通して螺着せしめ、ナイフ軸(18)を匣体(8)の上下貫通孔(15)(16)に縦貫すること、また、ナイフ軸(18)の上方のネジ部(14)に対し、下面が遊び芯棒(21)に当接し、かつ、上部が筒外に露出する状態でネジ部(14)に螺着するハンドル摘み(23)を取り付けた調節ネジ(24)を、遊び芯棒(21)に当接するまで螺着し、調節ネジ(24)の露出ネジ部に対し、ゆるみ止め固定ナツト(25)をナイフ軸(18)の上縁に向かって螺着することからなる構成であることが認められる。

この実施例に示された構成は、前述した従来技術の問題点の克服を目指したものであって、「遊び芯棒(21)」は、ナイフ軸(18)の筒孔(19)内の奥底部内に挿入された弾性部材(20)の上方に、筒内をスライドする前記ネジ部(14)に達する長さで、遊嵌内蔵されているものであるから、これが1本の長棒体であることは明らかである。

以上のとおり、「遊び芯棒(21)」が1本の長棒体であることは、本願考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載自体から明らかであるから(仮に、この点が同記載自体から一義的に明らかでないとしても、考案の詳細な説明を参酌すれば明らかなところである。)、これを相違点〈3〉の判断において引用考案2の「挟持体(5)(5')」と一致するとした審決の認定判断は誤っているものといわざるをえない。

(2)  被告は、本願考案の「遊び芯棒」が1本の長棒体であるとしても、引用考案2の「挟持体(5)(5')」は1本の遊び芯棒と同等なものであるから、審決の認定判断に誤りはないと主張するので、以下この点について検討する。

本願考案の電動クランク式ナイフ装置aは、前項に述べた構成によれば、機構部材の摩耗不安がないこと、この結果、ナイフの上下速度に狂いを生じないこと、及び、従来のレバー駆動機構で生じた騒音が生じないこと等のため、長期使用、安定性が確実に保障され、ナイフ調節も正確にできるという効果(本願明細書(9)頁8行ないし13 行)を奏することが認められる。

これに対し、引用考案2の「挟持体(5)(5')」の構成についてみるに、成立に争いのない甲第4号証(引用例2に係る実用新案公報)によれば、「挟持体5、5’はレバー8の先端8’を挟持しレバー8の弧を描きながらの上下動(往復運動)をピストンロツド1の上下動(垂直上下動)にするため、その上面又は下面を円形に形成して該ロツド1内に内蔵し挟持体5はスプリング4により押し上げられ、5'5’は上部より調節杆6によつて押しつけられる。」(2欄8行ないし13行)との記載が認められる。

この記載によれば、挟持体(5)、(5')は、常に、弧を描きながらの上下動(往復運動)をするレバー8の先端8’と当接している関係にあるから、長期間の使用により右各当接部分の摩耗は避けられず、その結果、ナイフの上下速度に狂いを生ずることや騒音の問題を生ずることは、既に本願明細書において、従来のレバー駆動機構の問題点として指摘しているところであることは、既に述べたとおりである。

そうすると、このような欠点を有しない本願考案の「遊び芯棒(21)」の構成と、引用考案2の「挟持体(5)(5')」の構成を機能的にみて同等と評価することができないことは明らかであるから、この点に関する被告の主張も採用できない。

以上の次第であるから、審決の相違点〈3〉に関する認定判断は誤りであり、これが審決の結論に影響することは明らかである。

3  よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙図面(1)

〈省略〉

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別紙図面(2)

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別紙図面(3)

〈省略〉

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